2017年6月20日火曜日

「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 人で不足なのに賃金が上がらない理由を
                  考えていただきます。
 その事例を知っていただきます。
 
ねらい:
 どうすれば、その窮状を打開できるか考えてください。

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同名の図書は素晴らしい編集です。
編者は玄田有史東大教授で、
21人の専門家にこのテーマで書いていただいたものを
収録しています。



ところが、単なる寄せ集めでなく、
その著述内容を、当問題の切り口で分類し、
なおかつ、巻末にその要約が載せられています。

その要約が素晴らしく
それだけを読めば、
このテーマの論点が明確に分かるようになっています。

私はこんな素晴らしいまとめを見たことがありません。
編者の才能に感銘いたします。

以下、主としてその要約から、
「人手不足なのに賃金が上がらない」理由を整理します。

1.労働市場の需給関係からの考察

1)経営がギリギリで少しでも人件費が上がると撤退となる。
2)多くの高齢者や女性が求職するので賃金が上がらない。
3)競争激化のため、経営が賃上げできない。

4)離職者を防ぐための賃上げ効果は限定的である。
5)日本の労働市場は企業内に閉じているため
               市場全体の需給関係を反映しない。

2.行動経済学等の観点からの考察

1)日本の給与体系・給与決定方式だと 
  いったん上げるとなかなか下げられないので、
  経営は給与上げに慎重になる。

  過去に賃金カットを回避した企業ほど、
  その後の賃上げの度合いが小さい。
  賃金カットを実現した企業はその後に利益率が向上すると
  大幅に給与を引き上げている、
  という事象も報告されています。

3.賃金制度などの諸制度の影響

1)能力主義・成果主義を標榜する中で
  平均的には給与水準の引き下げが行われた。
2)社会保障費負担の増加も給与引き上げ原資を奪っている。

4.賃金に対する規制などの影響

1)雇用面の最大の成長産業である医療・福祉系のの賃金が、
  診療報酬制度や介護報酬制度の規制によって
  上限が抑えられている。
2)その低賃金が、
  他の対人サービス業全体の足を引っ張っている。
 
5.非正規労働者の増加の影響

1)賃金の低い非正規労働者の増大は平均賃金を引き下げる。
2)定年再雇用の場合も低賃金となる。

6.能力開発・人材育成の弱体化の影響

1)高い技能を有する労働者が少ないから低賃金となる。
 それは社内の能力開発・人材育成の機会が減少したからである。
 
 企業が職場外で行う訓練であるOFFJT
 の従業員一人当たり支出額は
 リーマンショック後、それ以前に比べて半減している
 労働者が自身で行う自己啓発も同じく半減している。

7.高齢問題や世代問題の影響

1)就職氷河期の「第2次ベビーブーム時代」及びその後の世代は、
 卒業時に有利な条件での就職ができず、
 その後の転職等の場合でも恵まれていない。
 この世代が平均賃金を引き下げている。

2)高齢者は役職定年や再雇用で大幅な賃金低下となっている。
 この影響も大きい。

一方で、
個人に着目すると多くの場合緩やかであるが賃金は上昇している
という地道な研究成果も発表されています。

こういう研究をする研究者がいるということに感心しました。


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私はこの問題について、以下のように考えます。

給与が低いのは、
その労働が産み出す付加価値が小さいからである。

付加価値が高く、売上が得られるのであれば、
経営はその雇用を増やし、給与も上げます。

多くの労働者が従事している旧来型の労働は、
競争激化で付加価値を生み出さないか、
低生産性で生み出す付加価値が小さいのです。

そこで、賃金・給与を引き上げるには
労働の生産性向上が必要です。

ところが、従来型の労働者は、
「言われたことをこなす」という思考にはまっていて
より良い仕事の方法を自ら考えるという思考法を
持っていません。

その源流は、よく指摘されているように、
日本の教育制度にあります。
既存のでき上った体系を覚えることが中心で、
考える・創造する、ということに力点を置いていません。

ご承知のように、
ようやくその反省から大学の試験制度も
見直されるようになっています。

私共研修事業者の立場から見る新入社員層は
「指示待ち人間」です。
それをどうやって変革させるかが、
新入社員研修の最大の課題なのです。

研修でそれを成功させている例は殆どありません。
成功例は、日本電産殿が社長の発案で実施されている
「新入社員に毎日便所掃除をさせる」でしょう。

それを乗り越えられない社員は落第ですね。

新入社員だけでなく、
多くの社員が場合によって部長層までが
指示待ち人間なのです。
それを嘆いておあられる社長のなんと多いことでしょうか!

今後、日本はどうやって事業の競争力を高めていくのでしょうか。

人件費コストダウンの切り札だった非正規の増加は頭打ちです。
多くの企業で非正規社員の正規化に舵を切っています。

産業構造変化も頭打ちでしょう。
金融はアメリカに敵わないし、
製造業も、後進国やダイソンを考え出す国の後塵を拝しそうです。

トヨタのカイゼン活動は製造現場が中心です。
日本の製造現場のカイゼン力はおそらく世界一でしょう。

しかし、デスクワークで「カイゼン」を旨とする企業は、
日本のほんの一部です。

日本のデスクワーク現場の人たちは変化を好まないのです。
変化を嫌うのです。

「変化しないと企業が持たない!
変化を拒絶するものはクビだ!」
くらいのことを社長が言わない限り現場は変わりません。

その好例が、
ERPパッケージの導入です。
現場は、従来の仕事の方法が変わることを嫌い
「これができないならこのシステムは使えない」
と主張し、パッケージの良さを台無しにしました。

日本人が変化を嫌うのは、
「永年の農耕文化に起源があり日本人のDNAに近い」
ということは、
私が著書「価値目標思考のすすめ」で解説しました。

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日本の事務現場が変化を好まない例を
ご紹介しましょう。

それは、事務ソフトウェアの維持・機能拡張業務です。
ソフト保守業務とか維持拡張業務、
エンハンス業務と言われます。

事務用のソフトウェアは一度開発されると
10年以上に亘って使い続けます。

その間にビジネスが変化成長していきますから、
それを受けて対応する仕事が
事務ソフトウェアの維持・機能拡張業務なのです。

したがって、事業の競争力維持の観点から、
非常に重要なな役割を担っています。

ところが、保守業務という後ろ向きの言葉のせいもあり、
社会全般および経営層がその認識をしていないために、
経営はその業務に優れた人材・必要な予算を振り向けません。

その結果、その業務の担当は、
キツキツの状態で、業務の実施方法を見直し、
生産性を上げることができていません。

仕事の方法は10年1日進歩がないのです。
それでは、給与を上げる余地も生まれないでしょう?

そういう仕事に従事している幸せでない人は
日本に40万人から50万人もいるのです。

これでは、その人たちが浮かばれないし、
本来なすべきシステム強化ができていないことによる
日本の産業の競争力強化のネックにもなっている、と考え、
当社が有志を募って、従来時間の半分でできる
革新的業務実施方式を開発しています。

ところが、
この新方式を普及させるネックが現場の壁なのです。

壁の一つは、「変わりたくない」症候群です。
生産性が低かろうが慣れたものがいいという考えです。

私が、この新方式の普及のために、
社長のところにお勧めにいきますと、
社長は当然ながら賛成されます。

しかし、仕事は現場がするのだから、と
現場に検討を委ねますと、
現場は、なんだかんだと言って賛成しないのです。

強いトップであれば、
「とにかくやってみよう。責任は私がとる」
というのでしょうが、
現場を知っていてなおかつリーダシップをとる社長が
なかなかいません。

二つ目の壁は「他人が考えたものはいや」NIH症候群です。
NIHとは(Not Invented Here)の略で、
よそのものを嫌う自前主義です。

今や、多くの企業で従来型の自前主義を捨てています。
それは、そうしないとどうにもならないと
明確に認識されるようになった場合であって、
日本ではまだまだ自前主義がはびこっています。

そんなことで、
40万人ー50万人をハッピーにする革新方式は
なかなか普及しません。

このような状態では、
経営的には給与を上げる余地はないですね。

この解決策は二つです。
一つはトップが先見性を持つことです。
今はどういう時代なのか、この先どうなっていくのかを
真剣に考えていただかなければなりません。

もう一つは、現状維持は停滞・負けであり、
変革・革新をしていかなければならない、と
多くの社員が考えることです。
それが変革の時代の職業意識でしょうに。

両方とも、その処方箋は難しいですね。

目下、私はその処方箋づくりに
頭を悩ませています。




1 件のコメント:

  1. 情報ありがとうございます。ここで言われていることは正しいと思います。追加するならば、①過去20年間に雇用を増加させてきたのはサービス業である。日本のサービス業比率は20%以上に達しており、これからも、最も雇用を支える産業である。日本はサービスに対する顧客の要求が非常に厳しいため、その対応で相対的に生産性は低くなる。生産性が低いと付加価値は向上せず、GDPは上がらない。1997年以降GDPは全く上がっていない。従って、給与は上がらない。これは労働者が悪いのではなく、顧客にとって価値の高い仕事を、価値(利益)に代えられない事業モデルに問題がある。その多くは、経営者の責任であり労働者の責任ではない。と考える。最近ようやく、このことに気づいて、対策が打たれつつあると思う。クロネコなどはその典型的な例だと思う。

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