2017年4月18日火曜日

渡部昇一先生の早すぎるご逝去を悼みます

【このテーマの目的・ねらい】
目的:
 渡部昇一先生のご逝去を悼みます。
 ご遺構の一部をご紹介します。


ねらい:
 先生の意を大事にしましょう。


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渡部昇一先生が4月17日午後1時55分にお亡くなりになりました。
心不全だそうです。
直近まで元気でご活躍だったのですから。


本当に残念です。


私は、
先生の書かれた雑誌「致知」の連載評論「歴史の教訓」の愛読者でした。
この連載は、最新の5月号が第235回でしたから、
20年間も続けられたことになります。


ときどき、対談に登場されるときがあり、
その時は連載がお休みですから、20年以上です。


私が致知を読みだしたのは10年前くらいですが、
毎号この記事だけを楽しみに致知を読んでいました。
(と言うと致知のオーナ編集長に怒られそうですが)


私のブログにもときどき時事テーマが登場しましたが、
政治や社会テーマでは、
渡部先生の意見と食い違っていることはほとんどありませんでした。
それで安心していたというわけです。


先生は強い愛国者で、
日本のためを思う明快なご意見を述べられました。、
私は、いつもたいへん心強く思っていました。


時の支配層を批判したりおもねたりする「町の評論家」とは異なり、
ご自分の愛国基準で物事を判断されていました。
その帰結として、
安倍総理の判断力と行動力を高く評価されていました。


そういう筋の通ったオピニオンリーダがおられなくなることは、
日本にとって大きな損失です。
誠に残念なことです。


ここで、先生の最後となった致知の寄稿の一部をご紹介します。
致知2017年5月号からの転載です。
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【瑣末に囚われず本筋を見る】
トランプ大統領という人は、ある意味、
正直な人といえるのかもしれません。


政治家といえば、意に反することやカンに障ることがあっても、
前後の事情や反響を考えて無表情に、
場合によっては温和な顔つきのままやり過ごす、
といったタイプがほとんどです。


しかし、トランプ大統領はそういう芸当が苦手で、
とっさに感じたことを表現せずにはいられない人なのでしょう。


中略
そのためにトランプ大統領の周辺が妙に騒々しくなっています。
トランプ大統領が従来の政治家には見られなかったタイプだけに、
マスメディアにとっては絶好の報道ネタということでしょう。


瑣末な片言までも取り上げて、
ああだこうだとやって騒がしさを掻き立てています。


しかしそんなことに囚われていては、本筋はみえてきません。
重要なのは、トランプ大統領の政治施策が奈辺にあり、
それは日本にとってどうなのか、ということです。


そのトランプ政治の本筋を見極めるのに重要なのが、
3月1日に行われた施政方針演説でした。
中略


トランプ大統領の施政方針演説を聞いて、
私は安部首相の顔を思い浮かべました。
2月10日に行われた日米首脳会談で
トランプ大統領とサシの話を終え、
部屋から出てきた時の安部首相の顔です。


その表情は実にすっきりしていました。
それは単に
日米同盟関係の強化で同意したといったレベルに止まりません。
 
トランプ大統領が行おうとしている施策を確認し、
安堵という以上に納得した思いがその表情には溢れていました。
中略


【何よりも軍事が大事】
政治において、ことに国際政治において、最も重要なのは軍事です。
軍事の問題さえしっかりしていれば、
その他のことはどうでもいい、といっていいくらいです。


というと「平和、平和」と口先で唱えていれば
平和であり続けることができるかのような、
平和を抽象的にしか捉えられない平和主義者は眉をひそめるでしょうが、
それは歴史を、現実を、正確に見ていないからに他なりません。


世界が平和であったり戦争に突入したりしたことに
軍事問題の動向が決定的な鍵となったのは、
紛れもない歴史的事実なのですから。


そして、現在ただいまもその例外ではありません。
地域における小さな紛争はあっても
世界を巻き込むような戦争に至らずに過ぎているのは、
各国の軍事バランスの結果なのです。


しかし、トランプ大統領はこのバランスを維持するには、
さらにアメリカの軍事力を拡張する必要があると考えています。
その具体的な現れとして、
トランプ大統領は9%の軍事予算増額を表明しました。


そうなると、アメリカの本年度の軍事予算は6030億ドル、
約68兆円になり、トランプ大統領が胸を張って見せたように
アメリカ史上最高額となります。


議会を通過するか否かは未定ですが、
トランプ大統領がこの方策を打ち出したのには、
毎年軍事予算を増額し、
旺盛に軍事力拡張を図る中国の存在があることは明らかです。


因みに中国の本年度軍事予算は前年度から7%増額の
1兆434億元、約17兆3千億円となっています。


両者の額面の差は圧倒的ですが、
それだけではありません。


アメリカが軍事拡張に注力するというのは、
単に物量の増強だけに止まりません。
これによってものすごいハイテクの進展があるのがこれまでの例です。
これに太刀打ちできる国は、そうはありません。


ソ連という国が存在していた頃です。
そのソ連が急速な軍事力拡張を図り、
世界を緊張させていた時期がありました。


これに対し、時のアメリカ大統領レーガン氏は、
断固とした軍事拡張で対抗しました。
するとソ連は、とても太刀打ちできないと見越して鉾を収め、
それがついにはソ連という連邦国家の解体に繋がっていきました。


さて、中国はどうでしょうか。
トランプ大統領の打ち出した軍事拡張を見れば、
現状では中国のそれば蟷螂の斧でしかないことは明らかです。


そこで中国はどう出るか。
それは今後の国際情勢の変化の大きなポイントになるでしょう。
注目していかなければなりません。
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この後、
【米国第一への真っ当な施策】
【首脳会談がもたらした日米蜜月時代】
【権力根拠の薄弱さと権力者の恐怖、不安】  (北朝鮮の話題)
【予断を許さない危険と金正恩氏の不安感】
【韓国の混乱で膨らむ危険の火種】


と続けた後で結びとしてで以下の「遺言」を残しておられます。
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【日本の立ち位置から課題が見える】


一方は蜜月といっていい日米関係を中心に、
安全保障面でも経済面でもまず安心できる状況にあり、
その一方には予断を許さない危険が膨らんでいる状況がある。
これが現在ただ今の日本の国際関係における立ち位置である、
といえます。


では、この位置に立って、日本はどうするのかが問われます。
すると見えてくるのは、
ことに安全保障の面での国家としての自立性のなさではないでしょうか。


蜜月と言える緊密な日米同盟関係も、
客観視すれば
アメリカの分厚い軍事力へのもたれかかりであることは否定できまっせん。


そしてこうなっている根本原因が現行憲法にあることは
誰にも分かることです。


前に国際政治における軍事の重要さを述べましたが、
日本は軍事では全く身動きできない憲法の縛りがあるのですから、
安全保障をより確かなものにするためには、
必然的に他国の軍事にもたれかからざるを得ない
具合になっているのです。


これでいいはずはありません。
自立性をもって主体的に国際政治に関わり、
平和をより確かに維持していくには、
国家の根本である憲法を見直す必要があるということです。


前述したような国際関係での日本の立ち位置を確認すれば、
日本は憲法問題に本気で取り組む時期に差しかかっているのだ、
ということが実感できるはずです。


これこそ安倍政権が次に取り組まなければならない
喫緊の課題であると思います。
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本当に遺言らしい言葉ですね。


先生の歴史家としての的確なご判断に裏打ちされた論調は
自信あることを述べられる時も穏やかで
あまり断定されません。


それがかえって説得性を増しています。
語り口もお上手ですね。


心から渡部先生のご冥福をお祈りいたします。





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