2011年6月20日月曜日

「知性誕生」

このタイトルだと何を期待されますか。
イギリスの脳科学者であるジョン・ダンカン教授の書かれた
本です。
茂木健一郎氏が日経新聞で書評を書いておられたので、
読んでみました。

茂木氏の書評では、
「自分自身の能力開発に興味がある人はもちろん、
教育関係者、経営者など、多くの人がこの本を有益だと
感じることだろう」と書かれているのです。

原題は、HOW INTELLIGENCE HAPPENSで、
直訳すれば、知性はどのようにして起きるのか、です。
ですが、期待外れです。
専門家以外が読んで、感心することはあまりなさそうです。

1.この本の中で専門家以外が最も理解できるのは、
 著者ではなく20世紀初頭の心理学者スピアマン
 の発見した次のことです。

 「学力あるいは感覚弁別だけでなく、
 いかなる心的能力あるいは心的成績
 (決定の速さや記憶する能力、技術的問題を解決する能力、
 音楽的あるいは芸術的能力)
 に対して2種類の寄与がある。

 一つ目は、それぞれの人の性質の中の一般因子
 (general factor、これをgと呼ぶ。
 取り組むどんなことにでもその人が用いるもの)
 からの寄与。
 (上野注:分かりやすく言えば、
 何かができる人は他のこともできる)

 二つ目は、一つ以上の特殊因子(specific factor,s)
 からの寄与。
 こちらは、個人の技能や才能、その他の因子であり、
 記憶や芸術のような、
 測定される特定の能力に特有のもので
 他の活動にほとんど、あるいはまったく影響しない。
 (上野注:いわゆる特殊才能です)

スピアマンはこのことを観察と実験から立証したのですが、
その後以下のような反論をされて、
必ずしもこの理論が認められてきたのではないのだそうです。

 ・人の能力が1回の知能テストの点数で決まるわけがない。
  知能にはいろいろな種類があるのに。
  (実際的知能、社会的知能、感情的知能)
 ・gによって、人の運命が決まってしまうのは認めがたい。
 ・社会的差別の一因になる。
  (人種によってIQ(知能指数)の分布が異なる)

ジョン・ダンカン氏の貢献は、
このgが脳のどこから由来するかを突き止めたことです。
その苦労話が語られていて、茂木氏は感激されたようです。

分かりやすく言えば、
人の能力には、一般的能力と特殊才能がある、
この二つは別物である、
優れた芸術家やプロ運動選手は特殊才能を持っている、
と言うことで、これは今や常識になっています。
このことの科学的な解明をしたということです。

2.他にも理解しやすい理論が紹介されています。
 これも著者本人ではなく、1960年代に
 心理学者のレイモンド・キャッテル氏が提唱した
 理論のようです。

 ・知能には、流動性知能と結晶性知能がある。
 ・流動性知能は、新規の問題を解く現在の能力に関係する。
 ・結晶性知能は、習得された知識に基づく能力に関係する。
 (上野注:難しい言葉を使っていますが、
  判断力と記憶力のことです)

これも脳の損傷を受けた人のテストから
この存在が実証されているようです。

3.能動的行動と受動的行動という考え方
 も紹介されています。

 行動は脳内の二つの並列経路で処理されている。
 一つの経路は、
 靴の紐を結ぶことや文章を大声で読み上げること、
 職場まで行くことなどの馴染みの、
 熟練した日課や習慣に利用される。
 この経路は努力が要らないという感覚を伴う。
 つまり、課題がひとりでに進んでいるかのように思えるのだ。

 二つ目の経路は、
 課題が不慣れであったり、難しかったり危険である時に働く。
 この経路は前頭葉を含んでいる。
 この経路は、能動的制御の感覚、
 つまり個人の注意と意志の感覚を伴う。

このことも、検証されたようです。

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残念ながらすべてを通じて、
日常生活に役立つ新しい知見は得られませんでした。

もう一つ気に入らなかったことがあります。
この本は、本文316ページなのです。
以下の章構成となっていますが、
章の下の節、項とかの区分がなく、
ただだらだらと記述が続くのです。

 第1章 「知」は力なり             24ページ
 第2章 能力差はどこで生じる?      40ページ
 第3章 モジュール性の脳と心       24ページ
 第4章 知識と行動を結ぶもの       58ページ
 第5章 人工知能から「思考」を探る    50ページ
 第6章 前頭葉で起きていること      42ページ
      ーサルの食事から戦闘指揮まで
 第7章 「理性」は何でも合理化する    34ページ
 第8章 「知」の生物学的限界        26ページ

ビジネスのレポートだったら、一喝して突き返されます。
こんな原稿をそのまま出版するセンスが分かりません。
学者はそれを解読するとすれば、
やはり学者さんは「偉い」ですね。


ここで私が約20年前に作った脳の働きのモデル(仮説)を
ご紹介します。
これの方がよほどシンプルで分かりやすいモデル
なのではないでしょうか。


この図は約20年前に作ったものですから、
作成技術は稚拙です。ご勘弁ください。

このモデルで見ますと、「知性誕生」で取り上げているのは、
「判断力・記憶力特性」と「性能特性」だけです。

あらためて別の機会に、
このモデルについて開陳したいと思います。

脳科学者の貢献は、これらの思考特性は、
脳のどの部分でその働きを実現しているかを
実証することなのです。
それを証明するのは非常にたいへんなことなのです。

私は、ライフワークとして、
ABO式血液型による脳の働きの差を科学的に検証したい
と思っています。

これの検証活動を始めていますが、
なかなか大変です。
共同研究者を探しています。
ぜひどなたか一緒に研究しませんか。

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